過敏性腸症候群について
はじめに
急におなかが痛くなったりおなかを下したりしたことはありませんか?おなかの不快な症状に悩まされているかたは少なくありません.症状が長引いたりした場合には日常生活に支障をきたすこともあります.感染や腫瘍などの病気がないことが前提でこのような症状が続く場合には過敏性腸症候群の可能性があります.過敏性腸症候群(英語表記 irritable bowel syndrome 以下IBSと略します)とはどのような病気なのか解説していきます.
診断基準について
①おなかの不快な症状が1か月に3日間以上にわたって続いていて良くなったり悪くなったりする
②排便によって症状が和らいで排便の回数が増えたり減ったりして便の性状も硬くなったり軟らかくなったりする
上記を満たす場合IBSと診断されます.除外診断として感染性腸炎や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)大腸ポリープがあげられます.便の培養検査は正常菌叢で大腸内視鏡検査をうけると粘膜面には明らかな異常が認められませんし,大腸ポリープもありません.50歳以上,発熱を認める場合,体重が減少している場合,便に血が混じる場合は積極的に大腸内視鏡検査をうけることをおすすめします.
腸脳連関について
IBSでは大腸内視鏡検査では粘膜面に異常を認めません.すなわち器質的な異常がないにもかかわらず下痢や便秘を繰り返すことが特徴です.IBSの患者さんではおなかの症状のほかに不安やイライラなど精神的疾患を合併されていることが少なくありません.最近の研究ではIBSでは腸内細菌のバランスが崩れていることがわかってきました.腸内フローラが乱れると腸内でセロトニンの分泌が異常となります.迷走神経を介して腸から脳へ情報が伝達されて脳内ではセロトニンが枯渇して不安になったりイライラしたりします. 腸と脳が情報伝達を行うことで腸蠕動(腸の動き)や,精神のバランスが保たれているのです.
治療のお薬について
食事や運動など生活習慣の改善のみで症状が緩和されない場合にはお薬が用いられます.IBSのお薬は下痢が主体の場合と便秘が主体の場合で異なります.下痢が主体の場合には腸内のセロトニン分泌を抑えるセロトニン3型受容体拮抗薬(ラモセトロン塩酸塩)を用います.また高分子重合体という水分を吸収して便の硬さを調整する薬剤を用いる場合があります.便秘が主体の場合には下剤のほかにセロトニン4型受容体刺激薬(モサプリドクエン酸)を用いる場合があります.腸内細菌のバランスを保つため下痢型,便秘型どちらにもプロバイオティクス(ビフィズス菌や乳酸菌など生体にとって有用な菌の製剤)が用いられます.不安やいらいらなど精神症状が強い場合には抗不安薬を使用しますが短期間の使用にとどめます.
まとめ
IBSの診断基準ではおなかの症状のみから診断されます.悪い病気が隠れていないかどうか除外するためには大腸内視鏡検査をうけることが大切です.そのうえで器質的な異常がない場合にはIBSと診断して治療を開始します.IBSでは腸脳連関によって精神的な疾患(不安やいらいらなど)を合併している場合も少なくありません.精神的なストレスを避けられるような生活習慣の改善も重要となります.おなかの症状で少しでも不安を感じたらどうぞお気軽にご相談ください.